千秋ちゃんの観察日記

大学生が日常を綴る何か

恋する寄生虫 感想

本を選ぶ時のきっかけってなんでしょうか。

本屋に行くと毎日大量の本が並んでいる中でピピッとくる本を選ぶのは意外と難しいです。

今なら本屋大賞に選ばれた作品だから、ってのもありますね。

 

私は割と表紙買いが多いです。

正確に言えば表紙+タイトルで手に取って裏のあらすじを見て購入を決めるパターン。

ちょっと前までラノベを読んでたのでその名残?みたいなものです。

 

そんな買い方をする私が思わず手に取って、結果大当たりだった作品を紹介します。

 

恋する寄生虫 三秋縋

恋する寄生虫 (メディアワークス文庫)

 

思わず手に取ってしまう表紙のすばらしさ、分かってもらえるでしょうか。

まず女の子が可愛い、そして「恋する寄生虫」という関係なさそうなタイトル。

あらすじは以下の通りです。

 

何から何までまともではなくて、
しかし、紛れもなくそれは恋だった。

「ねえ、高坂さんは、こんな風に考えたことはない? 自分はこのまま、誰と愛し合うこともなく死んでいくんじゃないか。自分が死んだとき、涙を流してくれる人間は一人もいないんじゃないか」

失業中の青年・高坂賢吾と不登校の少女・佐薙ひじり。一見何もかもが噛み合わない二人は、社会復帰に向けてリハビリを共に行う中で惹かれ合い、やがて恋に落ちる。
しかし、幸福な日々はそう長くは続かなかった。彼らは知らずにいた。二人の恋が、<虫>によってもたらされた「操り人形の恋」に過ぎないことを――。

 

この本では「恋」と「寄生虫」という一見関係ないものがテーマとなっています。

寄生虫といっても専門用語は少しありますが、生々しい描写はなく虫などが嫌いでも読みやすいものとなっています。

あらすじで気になった人はぜひとも読んでみてください。

 

 

※以下感想のためネタバレを含みます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりにもまっすぐで甘くて、そして切ない物語

 

読み終わって思ったのは上の感想です。

どこまでも二人は愛し合っていたのだと思います。

 

きっかけは些細なことで、寄生虫によって恋愛感情を向けあった社会不適合の二人。

それまでの過程の心情描写が丁寧でぐっと引き込まれました。

好きになって交流を重ねている主人公にその感情(=恋心)は寄生虫による作用だと知らされます。

 

自分の考えが、想いが、自分の意志でないとしたら。

よくアニメで見るような身体が言うことが聞かないというものなら自分が操られているという自覚があります。

でも今回の場合、本人にはそんな自覚がありません。

自分が考えて行動していたことが実は他の寄生虫の影響でしたと言われてもすぐに納得できるものではないです。

それでも自分が決めた「自由意志」で行動しているとはだれも断言できないし証明もできないでしょう。

 

私はここでちょっと外れますけど「哲学的ゾンビ」を思い出しました。

 

それでは二人は寄生虫によって恋をしていたのでしょうか。

私は「NO」だと思います。

きっかけこそ寄生虫だと思いますが、相手について見て、聞いて、触った感覚は虫の幻覚でもないですし、そこから芽生えた本当の恋もあったはずです。

 

作中でも高坂は

人は頭だけで恋をするわけではない。目で恋をしたり、耳で恋をしたり、指先で恋をしたりする。それならば、僕が〈虫〉で恋をしたって、何もおかしくない

誰にも、文句は言わせない。(9章293頁)

というセリフがあります。

偽りの恋でも本人たちが望めば本物の恋に昇華するのではないでしょうか。

 

 

またこの作品が賛否両論といわれるのは結末を納得できるかどうかじゃないでしょうか。

結局ひじりは耐性虫を持った高坂とは違い、駆逐薬で本当に寄生虫が殺されあと少しの命ということを自覚します。

そこでひじりは高坂に会いに行き、つかの間の幸せな日々を送ります。

私は結局ラストはそのまま愛しの高坂の腕の中でひじりは眠るように死んだのだと解釈しています。

 

私はひじりの気持ちは共感できます。

〈幸福の絶頂で死を迎えたい〉という欲求は私にもありますし、ひじりは今まで社会になじめなかった分そう強く思ってしまうと思います。

これに共感できるかどうかはやっぱり人の価値観の違いだと思います。

そしてひじりにとって高坂との恋は何にでも代えがたいものだったはずです。これこそ人生の最後を捧げても良いほどに。

虫のせいとはいえ他人を避けていた二人にはこの本のあとがきで筆者が述べている通り「精神的欠陥」があります。

そんな二人が「二人だけ」で愛し合ったことこそ「純愛」と呼べるのでしょうか。

 

私はこの終わり方とても好きです。

ハッピーエンドで終わらせるなら296頁で一区切りつきます。

それでも筆者がひじり目線で書いたのは、それが彼女にとって一番の幸せで報われるからじゃないでしょうか。

最後に独り占めできた時間は何よりも幸福だったはずです。

 

 

長々と書きましたが、とても好きなお話の一つです。

良かったら読んでみてください。

 

何から何までまともではなくて、
しかし、紛れもなくそれは恋だった。

 

 

恋する寄生虫 (メディアワークス文庫)

恋する寄生虫 (メディアワークス文庫)